広島地方裁判所 昭和39年(行ウ)2号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕「証拠<略>によると、次の(一)(二)(三)の事実が認められ、これに違反する証拠はない。
(一) 原告は昭和三八年七月二二日午後五時一三分頃辰川から海岸通七丁目行きのバスを運転して、海岸通一丁目バス停留所の西約五〇米の交叉点を右折したのであるが、右場所附近は交通頻繁で対向車も多く、また原告運転のバスと約六米の間隔をおいて自動三輪車が先行していた。
(二) 原告は右交叉点を右折した直後、車掌から「つぎ停車」の合図を受けたので、バスの速度を時速二〇粁に減速して進行していたところ、突然先行の自動三輪車が急停車したので、原告は追突を避けるためブレーキを踏み右先行車の一米手前の位置(前記停留所の西約三〇米)にバスを停車させた。
(三) 乗客平本は原告がブレーキを踏む直前右停留所に降車するため座席(前方に向かつて左側、後から三番目)から立ち上がつたところであつたので、バスの停車の衝撃で身体の重心を失い前に走り車掌台のすぐ前の座席に坐つていた乗客泊野に突き当り、その結果平本は治療約一ケ月、泊野は治療約二週間を要する傷害を受けた。
原告は、右停車の衝撃はそれ程はげしいものではないと主張するが、証人平本盛人の証言及び検証(一回)の結果によると、右衝撃は相当強度のものであつたと認められ、右認定に反する証人金井美喜江の証言及び原告本人尋問の結果は右各証拠に照らし措信できない。
ところで、バスの運転者が右のような交通頻繁な場所で先行車に追従して進行する場合には、先行車が急停車することもあり得ることを予想し、追突を避けるに充分な速度と車間距離を保つて運転しなければならないことはもとより、さらに乗客の安全をも考慮して停車の衝撃によつて乗客が危害を受けることのないような速度と方法で運転しなければならないというべきである。
本件において、原告は車掌からの合図により次の停留所で降車する乗客があり、停留所までの距離からみても乗客が降車準備のため座席から立ち上がることも予想できたのであるから、単に速度を二〇粁に減速し、先行車との距離を六米程度保つただけで、漫然これに追従するが如きは、なお道路交通法第七〇条にいう安全運転義務をつくしたものとはいえない。
そうすると、原告の前記行為は道路交通法施行令第三八条第一号(ハ)の「法第一一九条第一項第九号」に、したがつて同条第二号(ロ)に該当するというべきところ原告に対し具体的にどのような措置をとるかは一応行政庁である被告の裁量に任されていると解される。もつとも行政庁の裁量権には一定の限界があり、いわゆる比例原則、平等原則に照らし著しく不当な処分である場合には、この処分は違法なものとして取消を免れないところであるが、本件において、被告が原告に対し道路交道法第一〇三条第二項第二号、同法施行令第三八条第二号(ロ)を適用して五五日間運転免許を停止した処分は、前認定の原告の過失、被害の態様並びに弁論の全趣旨から成立が認められる乙第一号証(免許取消、停止基準)及び証人栗栖藤人の証言に照らし著しく不当な処分ということはできない。」(長谷川茂治 雑賀飛龍 河村直樹)